鉄路を駆ける日々

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【革新】田園都市線ダイヤ改正の概要。日中パターンは20分サイクルに刷新。準急と大井町急行の増発続く。

東急から2021年3月13日のダイヤ改正の詳細が発表されました。終電繰り上げのニュースに隠れて密かに東急の長年の伝統を打ち破る革新的なダイヤ改正が行われるようなのでまとめてみました。

新ダイヤの簡単な概要

日中パターンの刷新

  • 15分サイクルから20分サイクルに変更
  • 20分の中で渋谷方面急行1本、大井町方面急行1本、準急1本、各停2本の優等:各停=3:2
  • 大井町線直通が毎時3本に増発
  • 準急が毎時3本に増発
  • 渋谷方面急行が毎時3本に減便
  • 渋谷発着は廃止、全列車半蔵門線直通
  • 長津田発着は廃止、全列車中央林間直通

終電繰り上げ

  • 概ね10分〜30分程度の繰り上げ
  • 深夜の急行の準急格下げ

 

3つのシフトとは

15分サイクルから20分サイクルへ

田園都市線では1989年以来、30年以上に渡って15分または30分で一巡するパターンダイヤが基本とされてきましたが、今回のダイヤ改正では大井町線と合わせて20分サイクルのダイヤが導入されます。同じ東急の東横線・目黒線・池上線・東急多摩川線*1の15分サイクルとの整合性を犠牲にした代わりに、南武線*2、横浜線、こどもの国線、小田急江ノ島線や東武スカイツリーラインなど田園都市線と直接接続する路線とサイクルを合わせる方を優先した格好となります。

 

各停重視から優等重視へ

各停を多く、優等列車を少なく運行する各停重視の姿勢が東急の伝統です。周辺の他の私鉄路線と比べても、各駅停車の本数が確保されていることが伺えます。

路線 優等列車 各駅停車 合計本数
東急田園都市線 8 8 16
京王線 15 6 21
小田急小田原線 18 6 24
京急本線 12 6 18

*3

田園都市線では長らく優等列車が毎時4本の時代が続き、12年からの段階的な増発で現行の8本に至っています。今回の改正ではさらに優等列車が強化され、優等:各駅=9:6となり、ついに優等列車の本数が各駅停車の本数を上回ることとなります。まさか東急がこうした優等中心のダイヤを組んでくるとは思いませんでした。

 

本線急行中心から準急・大井町急行中心へ

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バイパスとして期待される大井町線

今回の改正では、従来優等列車の中心だった渋谷方面の急行が削減され、逆に補助的存在だった準急や大井町線直通急行が増発されます。今でも乗り継げば都心に先着できる大井町線直通急行を見送って渋谷直通を待つ乗客が見受けられるだけに、それぞれの系統が1:1:1で走る新ダイヤに慣れるには時間がかかりそうです。

田園都市線では1979年に大井町線と完全に分離されて以来、渋谷方面への輸送を重視したダイヤが組まれてきました。特に優等列車は、郊外の多摩田園都市と都心を短い時間で結ぶために年々増発と速達化が進められ、79年の時点では快速(≒今の準急*4 )がわずか30分に1本だったのが、03年には急行が15分に1本走り、中央林間まで最速33分で走破するに至りました。

その後06年に大井町線直通の急行*5、07年に二子玉川から各駅に停車する準急が復活しましたが、いずれも本線急行の補助的存在に過ぎませんでした。

しかし、この輸送体制は徐々に限界を迎えていきます。まず多摩田園都市の発展に伴い、鷺沼以遠まで先着する15分に1本の急行は慢性的に混雑するようになり、急行以外にも都心に先着する列車の増発が望まれました。同時に世田谷区内でも利用者が増加し、急行の直後を走る各停が特に混雑するようになり、世田谷区内各駅への手当てが必要となりました。

これらの期待に応えるために増発されたのが準急でした。準急は急行に加えて世田谷区内の各駅に停車しつつ、中央林間から都心まで先着することで混雑緩和に大きく貢献しました。

さらに渋谷一辺倒の流動をバイパスの大井町線にも分散させるため、日中にも広く大井町線直通急行が設定されました。乗客の乗り換え抵抗を利用して大井町線の利用を促すと同時に、二子玉川で渋谷方面の各停と相互接続することで渋谷方面の先着列車にもなっています。

これらが15分間隔の急行の間に挟まり、実質7分半間隔の速達列車を確保しているのが現行ダイヤとなっています。

新ダイヤはこの新しい流れの集大成として、これらの速達列車が本線急行の本数を上回り、新たな基幹列車となります。

 

気になるポイント

急行通過駅の利便性確保は大丈夫?

梶が谷*6〜田奈間の急行通過駅では停車列車が毎時6本に削減されます。他の私鉄各線と比べれば決して少なすぎるわけではないとはいえ、長年保ってきた停車本数の削減は良いニュースではありません。急行通過駅とはいっても市が尾までの各駅は概ね40,000人/日以上の利用があり、需要の割に不便なダイヤとなりそうで、溝の口場面で各停の混雑悪化も懸念されます。

さらに優等:各停=3:2の中途半端なダイヤとなるため、各停が綺麗に10分間隔で来るわけでもなさそうで、急行停車駅とそれ以外の格差が一段と拡大しそうです。

 

今回も早朝特急定期化ならず

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時差Bizライナーは2018年夏を最後に運行されていない(@つくし野〜長津田)

東京都の推進する「時差Biz」に協賛し、時差通勤の促進のために何度か早朝時間帯に停車駅を絞った臨時特急「時差Bizライナー」が設定されたことがありました。コロナ禍でこれまで以上に時差出勤が強く要請される中、一部では早朝特急の定期運行を望む声も見受けられましたが、今回の改正でも見送られました。もっとも特急自体利用が少なく*7、また近年の早朝時間帯の増発は凄まじいものがあり、わざわざ特急の設定をするまでもないという判断も妥当だと言えます。例えば渋谷着7時頃を見ると、10年前には20分に1本程度しかなかった急行が今や5分に1本も走っており、郊外からの利便性は格段に向上しています。深夜帯の減便と合わせて昨今のトレンドとなっている早朝帯の増発に今後も期待したいところです。

 

中央林間口は輸送力過剰気味

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末端の急行通過駅の利用者はあまり多くない(@すずかけ台)

渋谷口では毎時2本、二子玉川〜長津田間でも毎時1本の減便が行われる今改正ですが、全列車が終点中央林間まで向かうこととなり末端部では毎時1本の増発となります。東急として再開発の一段落ついたグランベリーパークへの集客を図るためでしょうか。あるいは自治体と協力して郊外地域の活性化に取り組んでいることとの兼ね合いでしょうか。

地元民として郊外区間の増発は歓迎したいところですが、渋谷口よりも本数が多いのは流石にやり過ぎではないでしょうか。せめて大井町線直通急行を長津田止まりにしても東京方面への有効本数は維持でき、大きな問題は生じないかと思いますが…

小田急江ノ島線との接続改善に期待

前述の通り田園都市線では長らく15分サイクルのダイヤが組まれており、近年20分サイクルに変更された小田急江ノ島線との接続にばらつきが生じていました。末端部とはいえ中央林間での乗り換え需要はかなり多く、ラッシュ時や接続がギリギリのタイミングでは駅構内で乗り換えダッシュが繰り広げられています。

今回の改正で双方のサイクルが統一されれば、少なくとも日中の接続パターンは一定になりそうです。仮に東急の急行と江ノ島線列車が適度な時間で乗り継げるようになるとかなり便利になりそうです。都心方面への輸送でも(特に南林間以南〜中央林間乗継〜渋谷方面)シェアが動く可能性があります。

 

Qシートの拡大は見送り

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誤乗防止のため人海戦術が採られる

田園都市線初の座席指定サービスとして2018年にデビューしたQシート。最混雑区間を外した設定ということで注目を集めましたが、1編成のうち1両だけの設定に絞ったこともあり利用は概ね好調のようです。その一方で前後の一般車両が極端に混雑する、また専用編成ではないためか誤乗が相次いでいる(それを警備員の人海戦術で乗り切っている)など課題も見受けられます。コロナ禍の影響で一時休止に追い込まれましたが、需要の見込める時間帯に限って10月から再開され、通勤時の混雑を避けたいという需要は今後も見込めそうです。

現在のところ設定は夕刻の下り列車に限られていますが、他社の着席サービスは最も混雑する朝方にも設定されるのが通例となっており、Qシートも朝方への拡大を求める声がありましたが、今回の改正では見送られました。そもそも朝方には大井町線直通急行自体が6時台の1本しか運行されておらず、混雑する朝に実質6両しか使えない列車を挟み込む余地はないのかもしれません。

 

日中の渋谷始発廃止で着席列車消滅

田園都市線内の減便に伴い、毎時12本運転の半蔵門線との調整のために設けられていた渋谷発着の各停が廃止されます。昼間でも混雑している渋谷口で確実に余裕を持って座れる列車として重宝していたので残念ですが、わざわざ半蔵門駅まで回送しているのは明らかに非効率で、乗車率の低さ、続行の押上方面行きが渋谷手前で詰まり、かつ慢性的に混雑していることも考えると廃止もやむなしでしょう。

 

終電時間帯にも準急の躍進続く

終電繰り上げが一応の目玉であるため、終電時間帯だけは詳細な時刻表が公開されました。

現行ダイヤでは渋谷発0時を過ぎても急行が走っており、0時11分発が中央林間への最終連絡をになっています。これが改正後は減便の上準急に格下げとなります。二子玉川以遠へは3分程度余計にかかるようになりますが、その代わりに23時半〜0時10分頃まで世田谷区内に停車する列車がほぼ等間隔で運転されることとなり、酔客の誤乗も減らせるメリットを踏まえると悪くない変更だと思います。

 

www.myrailwaytravel.net

 

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*1:今回の改正でサイクル変更

*2:土休日のみ

*3:本数がピークとなる区間の日中1時間あたりの標準的な運行本数、有料列車含む

*4:設定当初の急行とともにあざみ野は通過

*5:当初は大井町線内は各駅停車で、往年の大井町行き快速と実質的に同じ存在だった

*6:二子新地・高津も減便対象だが、大井町線直通の各停が停車する分毎時10本は保証されている

*7:私が乗車した際は渋谷口でも乗車率は70%程度でした